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音の運んでくるもの

渡部玄一コラム

ハーモニー

以前、或るホールのこけら落としに弦楽四重奏の演奏の依頼を受け、演奏する曲の候補リストを送ったところ、この曲だけは勘弁して欲しいと言われた曲がありました。それはモーツアルトの傑作のひとつ、弦楽四重奏曲ハ長調、通称「不協和音」と呼ばれている曲です。
実はそのホールの入っている文化施設の建設に当たって、地元と自治体の間に生じた「不協和音」を新聞種にされた曰く付きの施設だったのです。和音、ないし和声とはいわゆるハーモニーの事です。不協和音とはいかにも耳障りな言葉ですし、人間関係の比喩としたらかなり険悪なイメージです。
モーツアルトの名誉のために言っておけば、彼のこの作品は古今のあらゆる曲のなかでも指折りに美しい曲のひとつです。

ふたつ以上の音を或る規則性に乗っ取って意図的に同時発生させると、そこにハーモニーが生まれます。カラオケなどで“ハモる”というのももちろんこの言葉からきています。芸術音楽では、このハーモニーの規則性は大変重要な事で、この前提に乗っ取って正しい音を発生させなければ、どんなに音楽を感じていようとも、表現の意欲に溢れていようとも、少なくとも芸術音楽とは見なされません。
不思議なことに人間が美しいと感じる音と音の組み合わせには、数学的な美も隠されています。その法則性に気づいた古代ギリシアのピュタゴラス(あのピュタゴラスの定理の人です)は、強く創造主─神の存在を感じたとされています。

古代ギリシアでは、知恵(ソフィア)の競争が盛んに行われていました。そんななか、ひとりの男が主張をはじめます。人間は実は何も知ってはいないと。そして次々と論敵を破り、人間は知恵を弄するのではなく、知恵(ソフィア)を愛する(フィル)という心的態度こそが最も大事なことなのだと看破します。その人こそソクラテスで、愛知─フィル、ソフィア、フィロソフィー、すなわち哲学の誕生です。
オーケストラ団体の名称にフィルハーモニーという言葉がよく使われます。大抵がフィルハーモニーオーケストラ(管弦楽団)か、シンフォニーオーケストラ─交響楽団です。
フィルハーモニーとは、ハーモニーを愛するという意味です。ハーモニーとは単に和声という意味だけでなく、お互いをまとめる、一致させる、という意味があります。
元々は古代インドヨーロッパ語の語根AR(アール)から派生した言葉で、組み合わせるという意味であり、同族語にはアーム(腕)、アート(芸術)、アーキテクト(建築)などがあります。ですからフィルハーモニーとは、和声はもちろんのこと、組み合わせや協調を愛し、芸術や、ものを構築するというイメージまで広がるすごい言葉なのです。
ふとオーケスラの愛すべき人々を思い浮かべると、そんな協調的な人ばかりではありませんし、いつでも和気あいあいとはいきません。
そこが人間の難しいところです。